数年前のことでした。パーソナルカラーとパーソナルスタイルの勉強を終えたわたしは、「お買い物同行サービス」のモニターを募集しました。
そして、教わっていた先生のご友人が協力してくださることになりました。
まず初日にヒアリングを行いました。
内容は、現在わたしが実施しているものとさほど変わりません。
普段着ている服や、目指すイメージについて、アンケートを埋めながら、お客様に色々話していただきます。
でも、当時のわたしには、他人との間に無意識の壁があったんです。
その壁が邪魔をして、初対面のお客様(先生のご友人)のお悩みをうまく聞き出すことができませんでした。
「ファッションに自信がない」という人は、たいていの場合、コーディネートが苦手とか、物が捨てられないとか、スタイルに悩みがあると言った、アンケートにすぐ書けるお悩み以外のお悩みを抱えておられます。
また、「どんな風になりたいかわからない」と、いうこともおっしゃいます。
この、「わからない」というのも、本当にファッションに疎いからわからない場合もあれば、「口に出すと笑われるかもしれないから、わからないと答えている」場合もあります。
お客様にどこまで本音で話していただけるかは、わたしがどこまでお客様との壁をなくし、お客様の気持ちに寄り添えるかにかかっています。
今、これだけ書けるわたしが、どうしてそれをできなかったのか。
それは、人の心に立ち入るのが怖かったから。もっと言うなら、わたし自身、人に自分の中に立ち入って欲しくない、という気持ちがあったからです。
それは、わたしの持つ心の癖のようなものでした。
ヒアリングのあと、すぐに先生から容赦のないダメ出しがありました。
お客様も、「もっとこの点を深く聞いて欲しかった」「不安な気持ちが解消できなかった」と、おっしゃいました。
そして、ダメ出しを聴きながら、わたしは泣いてしまったんです。
わたしは人前で負の感情を出すことが苦手でした。
なので、泣いてしまったことには、私自身が一番びっくりしました。
そして、わたし自身の問題を解決しなければ、このサービスは実施できないことに気づきました。
そうは言っても、わたしにはあまり時間がありませんでした。
なぜなら、先生が翌月には出産を控えていたからです。
数日後に予定通りお買い物同行を実施し、お客様には納得のいくお買い物をしていただけました。
が、その後の反省会では、頑張ったと褒めてもらえた一方で、たくさんダメ出しをいただきました。
一番たくさん言われたことは、「お客様に対して遠慮するな、ぶつかっていけ」と、いうことです。
そしてこの日、先日自分が泣いてしまった理由がわかりました。
それは、思い通りにできなかったからでも、ダメ出しをされたからでもなくって、先生やご友人がわたしのことを本気で考えてくれていたからです。
そして、「お客様の気持ちに寄り添う」ということが、どういうことか、その時はっきりとわかりました。
それは、魂が震えるような経験でした。
先生がわたしにしてくださった通りの気持ちで、お客様に接することができれば、絶対にうまくいく!
わたしが作った、お客様との間に立てている見えない壁の正体は、「遠慮」であり、「自分をよく思わせたい」という、自分本位な気持ちでした。
お客様が必要としてるのは、遠慮ではありません。似合う服を選んでもらうことです。
そのためには、普通の友達や、お店の人が言わないようなことも、口にしなければなりません。
また、時には「クローゼットの中身を全部写真に撮って送る」のような、面倒なお願いをしたり、 ファッションへの苦手意識について、立ち入るようなことも聞かなくてはなりません。
遠慮していては、何も始まらないのです。
遠慮しないというのは、お客様に対して馴れ馴れしくするのとは違います。
でも、距離を縮めるためには親しみを感じてもらうことも大切です。
先生のアドバイスの中から、わたしはまず、お客様の話を「聞く」ことから始めようと思いました。
誰しも、自分の話を真剣に聞いてくれる人に対しては、好感や信頼感を感じるからです。
それまでわたしは人の話をうまく聞けていませんでした。
相手が1言ったら3返す。
また、結論が見えたところで相手の話を遮って、「こういうことでしょう?」と、まとめてしまう。
聞くことより、うまく話すことに集中していたのです。
全て無意識で行なっていたことですが、先生から注意されたことで、それがアンバランスなコミュニケーションを生んでいることに気がつきました。
わたしにとって、「聞く」ということは、相手を全部受け入れるということです。
そしてそれは、自分を全部差し出すことでもあります。
それができていなかったのは、やっぱり、心に壁があったから。
不思議なことに壁の存在に気づいただけで、壁の高さはびっくりするほど低くなりました。
そして、わたしの「聞く姿勢」も、随分変わりました。
今、わたしのヒアリングは、「カウンセリングのようだ」あるいは、「コンサルティングのようだ」と、お客様におっしゃっていただけています。
わたしのところに来られるお客様は、初対面か、せいぜい一度会ったことがあるくらいの方です。
そして、どんな方も、自分の一番苦手な分野・ファッションを、他人であるわたしに任せることに対して、緊張もしてるし警戒もされてます。
実は、わたしもお客様と同じように緊張はしています。
毎回、お客様のお役に立てるか、満足していただけるか、自信はあっても不安です。
でも、あの日のことを思い出すと、不思議と不安は消え、お客様に対する感謝の気持ちと、最善を尽くそうという気持ちだけが残ります。